新設のsectorへと向かう長大なワームトンネルの本線の道すがら、車窓にはしばらくの間、平和で温厚な某かの居住地区らしき風景が続いた。
それらの空間は決して彼を待っていた訳ではないものの、
古いオルゴールを突然開けたような、かつてない懐かしさと、これまでと趣が異なった尖鋭な孤独感が同時に彼を包み込み
心中で思わず彼は、その方向に何度も会釈を繰り返した。
人影は見当たらず、音声も傍受出来なかったが、遙か遠方に立ち並ぶ煙突や
なぜか漂い続ける壊れやすい円形の物体をぼんやり眺めているだけで、
すでに、その場所での
生活の一コマまで、
彼のイメージは及んだ。
ただ、残念な事にそのイメージには明快な着地点がなく、
何者にも支配されない代わりに
何者にも影響を及ぼす事もないエトランゼの想いは、
肝心の「約束」を最後まで言い出せずに
途切れたままの境地を運び
穏やかで無表情な、雲一つない空の片隅に散っていった。
意を決し、途中下車をして「真意」を確かめる選択肢も在るように思われたが
やはり最終的にそれが叶う事はなく。
次第に見えなくなっていく、懐かしい煙突のある景色
を複雑な化学反応と併せて見送る事しか、
今の彼にはできなかった
。
しゃぼん玉エトランゼ
どぎまぎする内に 過ぎていくね
色褪せた気持ち 閉じたままの風景
シャボン玉のように綺麗… なぜか消える